先日気になるニュースを見ました。
タイトルは「時短取得で退園通知?自治体ごとに異なる「入園制度」とは」。
時短取得によって保育園の入園審査点数が下がり、保育園の退園通知を受けたという内容のもの。
本質は自治体ごとに異なる「入園制度」を取り上げた内容だったのですが、自治体でこんな差が出るものなのかと驚きました。
賛否両論、さまざまな意見があり、保活も経験した私も複雑な思いがあります。
待機児童のご家庭や、今後保育園を入れようと思っている方々は、どう思ったでしょう。
この記事の概要やネットの反応などを書きたいと思います。
※この記事を書いたのは2019年7月12日現在であり、奈良市HPの情報などは当時と比べると更新されています。
そのため、奈良市のHPリンク先と記事の内容に齟齬が生じている可能性があります。
時短したら退園? ニュースのあらまし
このニュースは2019年7月8日、MBSテレビ「Newsミント!」内の『特集』で取り上げられました。
どんな内容のニュースだったか
奈良市に住む3人家族を取り上げた内容で、一家は夫婦+1歳の長男。その長男は4月から認可保育園に通っており、母親はそれにあわせて職場復帰をしていました。
母親は、職場の時短勤務制度を利用して2時間短い勤務時間で働いていたところ、奈良市から電話があり、時短であれば点数が足りないため、退園してほしい旨を伝えられたそうです。
退園が難しいならばフルタイムにするようにとも言われたとのこと。
フルタイムを選択しても、専業主婦を選択しても、さまざまな問題が出てくるため、母親をはじめ父親も頭を悩まします。
最終的に、この母親は保育園に預け続けるために、フルタイム勤務にすることを検討しているようです。
退園の通知が、入園後にきた理由
認可保育園はその自治体が定める点数を元に、保育園の入園選定をおこなっています。
奈良市は就業契約上の時間ではなく、実労時間を元に点数をつけおり、1日8時間×週5日働く(月160時間以上の労働)であれば、100点が加算。
夫婦でフルタイム勤務ならば、合計200点が加算されます。
母親はもともとフルタイムで働く予定だったため、フルタイムの勤務時間で選考書類を提出。しかし、復帰後すぐに育児短時間勤務(時短)に切り替えます。
そのため、実働時間で点数をつけていた奈良市は、点数がフルタイム世帯より低いと判断し、退園かフルタイムかの選択を迫りました。
奈良市の考え・意見
奈良市の保育所幼稚園課の話では、
奈良市では就労している母親の40%がパートやアルバイトであること。そのため、育児短時間勤務(時短)制度はあっても取得しづらい人が大変多い。正社員と公平性を確保するためにも、実働時間で判断している
といったものでした。
あわせて、「時短の制度がありつつも有効に活用されていないところは、課題ではある」との意識もあるようです。
問題となった一家の父親・母親の意見
母親は、時短で点数が下がるなんて思わなかったそうです。現在1時間以上かけて通勤しているため、仕事を終えてすぐに保育園に行っても、17時半とのこと。
父親は
「市が働き方改革とか女性の活躍とか、なるべく離職防止ということで、育児短時間勤務制度を法律を改正してまで導入してきたわけですから。それとは真逆のことをやってしまっている。」
とのコメント。
母親のコメントは、一部を抜粋すると
フルタイムで働くと、午後6時半のお迎えの時間に間に合わなくなってしまうため、30分ごとに450円の延長保育料が毎日かかってしまいます。夕貴さんは今、フルタイムに変更して仕事を続けるか、仕事を辞めて専業主婦になるか悩んでいます。
「(子どもと)離れて、ちょっと寂しい思いをさせて働きに行っているのに、それがまた保育料稼ぐだけになってしまうような状況っていうのはすごい悲しいなと。」
ともに、『【特集】時短取得で退園通知?自治体ごとに異なる「入園制度」とは/MBS』より引用
母親は最後に「時短をとっても保育園入園できるようになってほしい、安心して預けながら仕事と家庭を両立していけるようになるのが望ましい」といったことも述べていました。
ネットの反応
このニュースはYahoo!ニュースでも掲載され、コメントもたくさんつきました。どんな内容であれ、いろんな考え方がありますが、ざっと見る限り、この一家に対する批判的なものが圧倒的に多かったです。
批判の多くは、入園後に時短にしたこと
批判の多くは、入園してすぐにフルタイムから時短に切り替えたことでした。
- 奈良市が実働時間で点数をつけることを知らなかったのか。
- 知っていて、フルタイム申請→入園後にすぐに時短ならば、虚偽申請と思われても仕方がない。
- 住んでいる自治体がどう点数をつけるか知らなかったとしたら、リサーチ不足。
こうした意見が多かったです。
奈良市の点数の付け方とか保育園不足とかの問題以前に、決められたことに対して、不誠実な行動をしていると感じる人が多いようですね。
これが許されるなら、虚偽申請も増えるし、ほかにもっと必要な人が落とされるかもしれない、といった声も併せてありました。
ほかの批判的な意見
ほかにも批判的な意見はあります。
たとえば記事には父親は市議会議員であることが書かれていたため、そこにも飛び火します。
- 市議ならそういう決まりくらい知っているだろう。知らないなら問題。
- 市議で時間の融通きくのだろうし、市内勤務の父親がお迎えとか行くべき。
- 収入がある家庭なんだから、他に譲るべき。自分たちは必要ならベビーシッターなど雇えば良い。
などといった意見。
- 自分たちも●●して、やりくりしていた。認可保育園入るならフルタイム勤務は当たり前だし、考えが甘い。
- 働き続けたいなら、保育園が入れる地域に引っ越せばよい
といった意見もありました。
正直このあたりの意見は、どうだろうと感じます。
奈良市の入園書類を見ながら、個人的意見
情報を整理すると
- 奈良市が実働時間で点数化をしていた。
- 母親はフルタイム申請をしていたのにもかかわらず、入園後(復帰後)すぐに時短を選択した。
そのため、申請どおりのフルタイムにするか、退園するかを迫られた。母親は時短で点数が下げられるのを知らなかった。
という話です。
個人的な意見を書く前に、奈良市の入園に関する書類を確認してみました。
記事作成の2019年7月当時の資料を見て執筆しています。
現在はリンク先の内容が変わっているかもしれません。
なお、純粋に今年の点数表や指数表、申請方法を知りたい方は、ちゃんと奈良市のHPからたどりリンク先を確認してください。(年によって変更があるかもしれないので)
奈良市公式HP
http://www.city.nara.lg.jp/www/toppage/0000000000000/APM03000.html
奈良市の入園に関する情報
幼稚園・保育所・認定こども園・地域型保育事業の手続きについて/奈良市
http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1539819808227/index.html
「入園のしおり」全国で統一してほしいですよね……。しかも奈良市は、「入園のしおり」に点数表が書いていないし。
点数については「指数表」なるものを参考にするみたいです。
奈良市特定教育・保育施設等利用基本指数表/奈良市
http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1539819808227/simple/shisuu.pdf
どこにも時短だとポイントが下がることが書いていない……
改めて、「指数表」と「入園のしおり」をチェックしてみました。
すると、どこにも実労時間を元に点数をつけるといった文言が書かれていません。(見逃した……?)
指数表には「月当たりの常態となる就労時間(休憩時間を含む、就業規則等に定められた始業から終業までを1日算定の基本とする。)」と書かれています。
「就業規則等に定められた」っていうことは、「就業契約上の時間」のことではないのでしょうか?
その指数表の判断のもととなる「勤務就労(内定)証明書」を見てみると、「就労日と時間」については「※就労時間については、休憩時間を含む就業規則等で定められた時間や曜日等を 育児短時間勤務取得の場合は取得予定の時間でご記入願います。」とだけ書かれています。
個人的な意見
これだけの情報で、実働時間で判断しているってわかりますか?
批判をしている人たちは、そこもしっかりと窓口で確認すべき内容だと責めるのでしょうか。
第一子ではじめて保育園の申請する母親が、自治体によって実働時間で判断するところと就業契約上の時間で判断するところの2パターンがある可能性を考えていたとは考えられません。
体験談:私が就業契約上の時間で判断することを知ったきっかけ
ちなみに、私の自治体では就業上の契約時間で点数を判断していましたが、それを知ったのは、たまたま窓口で相談していたときです。
私は今回の母親とは逆で、実働時間でポイントがつくと思っていました。
私の地域でも待機児童がいて、フルタイム(満点)でないと保育園に入ることは厳しいとされています。
しかし、実働8時間+通勤時間だと、延長を頼んだとしても間に合いませんでした。
お迎えに間に合うために、朝早くしようにも開園時間まで待っていては間に合いません。
- 通勤時間+実働8時間だと、どの保育園でも条件に合うところがない
- たよれる親類も近くにいない
- ファミサポも申し込んでいるが難しそう
ということを窓口で相談しました。
そのときに、時短は点数に影響しない、契約時間で判断していると言われたのです。
しかし、入園の点数をつける表を見直しても、そこには「1日●時間以上の就労を常態とすれば、●ポイント」といった表現のみしか書かれていません。
「就労を常態」なので、時短にすればその時間に見合った点数がつくと思っていましたが、私が住んでいた自治体では
あくまで契約上の就労時間に対して点数をつけるのであって、
たとえば育休前など9時~17時の就業時間(雇用契約上の時間)で働いていた人が、育休後に9時~16時の時短をして復帰するのであれば、実働8時間として考えます。
ただし、9時~16時を時短ではなく、通常の就労時間として再雇用契約を結び直してしまうと、常態となる就労時間は7時間として考えるため、実働7時間とする点数をつけます。
といった考え方でした。
奈良市の話に戻りますが、奈良市の書類でも「常態となる就労時間」といった表現をしていましたよね?
しかし、奈良市では実働時間を元にしていました。
つまり、『常態』が実働時間を表しているのか、雇用契約上のものを表しているのか、どちらなのかなんて聞かない限りはわかりません。
そして、実働時間か契約時間かで判断するケースがあるということに気づかなければ、聞くこともありません。
奈良市の勤務就労証明書には「育児短時間勤務取得の場合は取得予定の時間でご記入願います。」と書かれています。
企業によっては復帰して、慣らし保育の様子をみてから、フルタイムや時短の調整をしてくれるところもあります。
もしも母親もそういう企業であったならば、虚偽申請をするつもりはなかったのでは?
純粋に申請時は時短するかの判断をしなかったから、そのままフルタイムの時間(就業契約上の時間)を記載したのではとも感じます。
そのほか、父親が市議会議員だということに批判も集まっていましたが、今回の件では関係ない話ですよね。
収入が高い世帯であれば認可保育園を利用すべきでないというのも、極端な考えだと感じます。
奈良市の言い分には違和感
先ほども書きましたが、奈良市は今回の問題に対して「奈良市では就労している母親の40%がパートやアルバイトであること。そのため、育児短時間勤務(時短)制度はあっても取得しづらい人が大変多い。正社員と公平性を確保するためにも、実働時間で判断している」と言っています。
これは「就労している母親の40%のパートやアルバイトが時短が使えない状況だから、残りの60%(正社員など)の母親が時短を使ってしまっては不公平です」と言っているに等しいです。
「パートやアルバイト VS 正社員」の構図を作り上げたいのでしょうか。
問題は「パートやアルバイトの人が時短が使える環境があるのに、使えない状況があること」であり、そこを解決しようとすることが第一なのでは。
また、「時短の制度がありつつも有効に活用されていないところは、課題ではある」とも言っていましたが、
たとえ今すぐこれらの問題を解決するのは難しくても、具体的な対策や議論をしていることを伝えてくれないと、「課題だと思っている」だけで終わっているのではと感じてしまいます。
(もしくは、今後の施策も伝えたが、テレビ局側にカットされたんでしょうか?)
40%がパートやアルバイトの理由を推測
正社員は、パートやアルバイトよりも通勤時間が長い人が多いですよね。
パートやアルバイトだと通勤1時間以上かけて、仕事に行くイメージではありません。
そうなると、フルタイム+1時間程度は通勤がかかる正社員は不利と考えられませんか?
たとえば、1時間以上通勤にかかっている人で、フルタイム勤務するとお迎えに間に合わない、もしくはギリギリ間に合うといった人もいると思います。
親子の負担も重く、そういった人が退職して、近場で働く場所を探した結果、パートやアルバイトにシフト。結果40%の数値ができあがったのではとも推測できるのですが、いかがでしょう。
もちろん40%全員が同じ境遇ではないにせよ、この40%の内訳を見てみたいですね。
子供の年齢ごとの割合、退職タイミング、今の職場を選んだキッカケ、現在のキャリアと理想キャリアのギャップ有無など。
保育園に入園できたからこそ、いえること
今回ニュースで取りあげられた母親は、いまは2時間の時短をとっていて、急いでお迎えに行き17時半にという話だったので、フルタイムになったら19時半のお迎えとなるのでしょう。
子供、しかも3歳にも達していない子供を19時半にお迎えは、かなりきついです。
子供にとっても親にとっても、体力的にも精神的にも。
帰宅して夕飯の準備、お風呂、家事、寝かしつけ。父親も手伝うかもしれませんが、お子さんが寝るのは22時すぎることでしょう。
こういうと、いやなら仕事辞めればとか、ファミサポや家族の協力でどうにかしろとか、家計が厳しいならそんなこと言っていられないとか、そういった批判がきますが、そういう問題じゃないですよね。
家族みんなが負担を選択しなければ、保育園を利用できないのは、いかがなものでしょう。
時短制度があるのに使うと、ほぼ保育園は入れなくなるのであれば、なんの制度なんでしょう。
(ちなみに、奈良市だけでなく都市部など待機児童が多くいる地域では、実働時間で点数をつけるところが多い傾向です)
ただ、私ももしこの一家と同じ地域に住み、フルタイムで落とされたら、同じように批判していたのかもしれません。
時短も使えて、(いろいろあったけれど)認可保育園にも運良く入れたからこそかもしれませんが、どちらかといえばこの母親には同情的な気持ちだし、責めるべきはこの一家ではないとも感じます。
みなさんはこのニュースを見て、どう感じますか?
【参考サイト】
- 【特集】時短取得で退園通知?自治体ごとに異なる「入園制度」とは/MBS
https://www.mbs.jp/mint/news/2019/07/09/070848.shtml - 【特集】時短取得で退園通知?自治体ごとに異なる「入園制度」とは/Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190709-00010000-mbsnews-l29 - 幼稚園・保育所・認定こども園・地域型保育事業の手続きについて/奈良市
http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1539819808227/index.html