今回は「短時間勤務制度(時短)」について、お伝えしたいと思います。
このように、大まかなイメージしか知らない人も多いのでは。
時短という言葉自体は何回かお伝えしたのですが、改めてどのような制度なのか、お子さんを持つご家庭にどう関わってくるのかなどをお伝えします。
育児短時間勤務制度(時短)の概要
育児短時間勤務制度とは、「育児・介護休業法」で義務化されている制度です。
その内容は「3歳に満たない子供を養育している労働者は、1日の所定労働時間を原則として6時間(5時間45分~6時間)とする措置を講じる義務がある」というもの。
企業は対象者がこの制度の利用を求めた際に、しっかりと応じる必要があります。
ポイント
対象外にされる可能性がある人
時短の対象となるのは、3歳未満の子供を養育している労働者(従業員)です。
また、以下に一つでも該当する人たちは対象外となります。
- 元々の所定労働時間が6時間未満の人
- 日雇いなど、日々雇用される契約の人
- 時短制度が適用される期間に育児休業をしている人
- 労働者側と雇用主側による協定(労使協定)により適用除外とされた人
労使協定により適用除外にできるのは、以下に該当する人たちです。
- 雇用期間が1年経っていない人
- 所定労働日数が1週間のうち2日以下の人
- 業務の性質もしくは業務の実施体制から、時短制度の導入が難しいと認められている業務に就いている人(※1)
業務の性質もしくは業務の実施体制から、時短制度の導入が難しいと認められている業務とは?
厚生労働省は、「業務の性質又は実施体制に照らして短時間勤務制度を講ずることが困難な業務」として、以下のものを例示しています。
イ 業務の性質に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
→ 国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務ロ. 業務の実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
→ 労働者数が少ない事業所において、当該業務に従事しうる労働者数が著しく少ない業務ハ. 業務の性質及び実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
(イ) 流れ作業方式による製造業務であって、短時間勤務の者を勤務体制に組み込むことが困難な業務 (ロ) 交替制勤務による製造業務であって、短時間勤務の者を勤務体制に組み込むことが困難な業務 (ハ) 個人ごとに担当する企業、地域等が厳密に分担されていて、他の労働者では代替が困難な営業業務 「育児・介護休業制度ガイドブック/厚生労働省」より引用
以降は、短時間勤務制度について、疑問にもたれやすいポイントを企業、従業員側それぞれお伝えします。
育児短時間勤務制度(時短)の疑問【企業編】
始業時間や終業時刻は何時か決まっているのか
「原則6時間」の短時間勤務を選択できるようにさえなっていれば、始業・終業時刻(勤務時間帯)は会社が自由に定めて問題ありません。
たとえば、小売業のシフト制の場合、遅番や土日に人材を手厚くしたい傾向があります。
育児短時間勤務の人だけが、遅番・土日を免除した場合、代わりに対応する社員に負担が行ってしまい社内不和になりかねません。
そうならないためにも、育児短時間制度を利用する人たちにも、業務上必要な時間帯を提示することは可能といえます。
1日の所定労働時間は6時間でないといけないのか
法律的には「6時間」の短時間勤務を選択できるようになっていれば、あとは会社の自由規定で問題ありません(社労士談)
たとえば、1日の労働時間を6時間のほかに、5時間や7時間を設ける、隔日勤務を設けるなど、労働者の選択肢を増やすことが望ましいとされています。
※6時間以外の勤務時間を設けることについては、義務ではありません。
例
育児短時間勤務制度の適用を受けた従業員の1日の所定労働時間は、次の各号のいずれかから本人が選択した時間とし、育児短時間勤務期間中の始業及び終業の時刻は、育児の状況を勘案し、個人ごとに定める。
(1) 5時間
(2) 6時間
(3) 7時間
3歳以上の子供は適応されないのか
3歳まで(3歳未満)は法によって定められているだけで、それ以降については会社の企業努力によります。
定めなくても罰則・違反ではありません。
給与や賞与はどうなるのか
基本的に時短した分だけ、給与は減額されます。
たとえば、通常の勤務時間8時間の人が、6時間の短時間勤務になった場合は、給与が8分の6となります。
賞与についても同じように減額されます。
賞与の算定をする際に、勤務日数を考慮する場合、短縮された時間分を算定基礎に含めない処理をすることは問題ありません。
ただし、正統な理由なく、必要以上に減額する行為は不利益な取り扱いとして判断され、育児・介護休業法では禁止されています。
【参考サイト】
有給休暇中の給与はどうなるのか
時短利用時の有給休暇(有休)中の給与は、時短の給与と同じです。
時短利用で給与が8分の6となっていれば、有休中も給与の8分の6が支払われます。
残業を求めても良い?
企業は従業員に残業を求めることができます。
しかし、「育児・介護のための所定外労働の制限」として、「3歳未満の子供を養育する労働者が子を養育するために請求した場合には、事業主は所定労働時間を超えて労働させてはならない」とされています。
また、3歳以上の子供を養育する場合も、「育児・介護のための時間外労働の制限」として、「小学校に就学するまでの子供を養育する労働者がその子を養育するために請求した場合には、事業主は制限時間(1か月24時間、1年150時間)を超えて時間外労働をさせてはならない 」です。
「請求」とは「時間外労働の免除の請求」を指し、労働者側からそういった請求があった場合は、残業を強制することはできません。
ただし、例外として、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は請求を拒めることもあります。
【参考サイト】
残業のときの給与と就業規則の重要性
労働基準法では「1週間で40時間、1日8時間」を法定労働時間として定めています。
通常これを超えると、超過分に対して割増賃金(法定時間外労働時間×基本時給×1.25)が支払われることになります。
たとえば所定労働時間8時間の会社で、時短を使用して6時間勤務とした場合。
2時間残業(8時間勤務)した場合は、残業代は「2時間×基本時給」です。
もしも3時間残業(9時間勤務)した場合は、残業代は「2時間×基本時給+1時間×基本時給×1.25」となります。
注意点として、就業規則にしっかりと割増賃金に関して書いておかないと、従業員が勘違いする可能性が高いということです。
- 「法定外時間外労働に対してのみ割増賃金を支払う」ことを明記
- 「1日の所定労働時間を超過した場合に割増賃金を支払う」ことを明記
なお、2の場合であった場合、所定労働時間は何時から何時までか、実働時間は何時間なのかも表記するべきです。
そうしないと、時短の人が「いまは所定時間6時間だから、6時間を超えた段階で割増の残業代がつく」と勘違いしてしまうからです。
就業規則に記すときの注意点
「育児短時間勤務」の項を作成し、最低限以下の項目を取り決めておきましょう。
- 対象となる従業員(日雇いなどは除く、など)
- 養育する子は何歳までとするか(例:3歳に満たない子を養育する従業員、など)
- どうすれば育児短時間勤務を利用できるのか(申し出ることによって、など)
- 何時から何時までの就業になるのか(休憩時間の定めも含む。また、原則6時間を含む)
- いつまでにどこに申し出ればいいのか(育児短時間勤務利用予定日の1か月前までに、など)
- 育児短時間勤務利用期間中の給与規定
- 育児短時間勤務利用期間中の賞与規定
- (定期昇給や退職金があった場合)それらへの影響
- 会社は申し出た従業員に大して、不利益な取り扱いをしない(不利益な取り扱いとは、解雇、降格、減給などを指す)
厚生労働省の「就業規則への記載はもうお済みですか ‐育児・介護休業等に関する規則の規定例‐ 」なども参考になります。
ただ、従業員が働く上で重要な部分でもあるので、できれば漏れやミスが発生しないためにも、社労士に相談・チェックいただくほうが良いでしょう。
育児短時間勤務制度(時短)の疑問【従業員編】
会社の短時間勤務の内容を確認する方法は?
法によって、定められているため、一般的に就業規則などに短時間勤務制度に関する表記がされているはずです。
かならず、就業規則を確認してみましょう。
就業規則がない。記載がない場合は時短が使えない?
法律で定められているため、本来短時間勤務制度の対象となる労働者であれば、企業はそれを認めなければいけません。
ちなみに、労働者が10人未満の企業は作成する義務はありません(厚生労働省の指針では、10人未満でも就業規則を作成することが望まれてはいますが、強制力はありません)。
就業規則がなくてものない企業は少数精鋭で業務をしていることが多く、一人時短にするとうまく回らない可能性も。
そうなると、「業務の実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務」の対象となり、労使協定によって適用除外となっている(もしくは、する)こともあります。
そのため、まずは「法で定められている」「当然の権利」などと主張するのではなく、人事担当の人に制度の共有と確認。
自分の意向を話し、適用が難しい場合は折衷案を模索していくのが良いでしょう。
また、そもそも企業の従業員に対する姿勢には疑念を感じる、適用除外・折衷案ではやりがいもなくなるなどあれば、これを機に転職も視野に入れてみると良いかもしれません。
育児短時間勤務期間を終えても、子育ては続きます。
難色を示す企業の場合は、以降も肩身の狭い思いをする可能性が高いからです。
養育している子どもの年齢が5歳と1歳。時短は使える?
3歳未満の子どもを養育している人が対象なので、1歳のお子さんがいる場合は短時間勤務制度は適用されます。
育児・介護休業法の改正は定期的におこなわれる
女性の社会進出、高齢化社会、少子化対策などを受けて、育児・介護休業法は定期的に見直しがされています。
今後もより多くの従業員が利用しやすいよう、変化していく部分が出てくるでしょう。
本記事は2021年現在の情報をもととしていますが、もしも制度を利用するときは最新の情報をチェック。
かつ、自社の就業規則にも目を通して、自分がどの制度をどういった形で利用できるかをしっかりと把握することが大切です。
また、社内に人事担当、顧問社労士がいれば、そちらとも情報を共有・確認すると不利益を被る事態も減るかと思われます。
【参考サイト】